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zoom RSS 悲惨を可笑しみで包む『アンジェラの灰』

<<   作成日時 : 2017/05/21 18:16   >>

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フランク・マコートの『アンジェラの灰』は、アイルランドでの
悲惨極まりない少年時代を描いた自伝小説です。(回想録と
いわれていますが、自伝小説だと思います)

父親は呑んだくれ。失業手当も飲んでしまう。たまに仕事に
ありついても、1週間分の給料が入る金曜の夜に飲んでしまい、
土曜日は仕事をサボるのですぐにクビになってしまう。家には
1銭もない。
ぼろ布をまとい食べるものもない。空腹をしのぐためには
盗みもせざるを得ない。フィッシュアンドチップスを包んでいた
新聞紙の油をフランクが舐める場面には胸が詰まる。
住んでいるところは、ちょっと雨が降れば1階がすぐに水浸しに
なってしまうようなオンボロの家。しかし両親は、無事な2階を
「イタリア」と呼ぶようなユーモアも持ち合わせている。
靴はボロボロで、父親が古タイヤの切れ端を使って修理する。

貧困と劣悪な環境のために、フランクの妹は早くに死に、
その後生まれた双子の弟2人も次々に亡くなる。
フランク自身もチフスにかかり生死の境をさまよったり、目を
病んだりする。

冬、暖炉に燃やすものがなくて、家の壁板をはがして燃やす。
こんなところは米朝師匠の「貧乏花見」のマクラで語る「戸無し
長屋」みたいですね。戸を外して燃やす。戸が無かったら
ぶっそうだろうと思われますが、決してこんなところに泥棒は
入りません。入るどころかちょいちょい出よる。

ワタクシのうちも貧乏でしたが、「アイルランド人の惨めさは
桁が違う。」

本書にはフランクが出会ったたくさんの人々が描かれています。
服装を見ただけでフランクの鼻先でドアを閉めてしまう教会。
すぐに鞭をふるう高圧的な教師たち。教師だけではありません。
職業に関係なくより弱い立場の者に対しては高圧的になる
人々がたくさんいるようです。
逆に、貧しい人たちが助け合って暮らしているさまも描かれます。
そして人々は篤い信仰心を持っています。けれどもそれが
人々の生き方をがんじがらめにしているようにも思われます。
イギリスの何百年にもわたる支配から勝ち取った独立。
しかし、その内情はなかなか厳しいことを示しています。

このように悲惨極まりない状況に読者は胸を痛めるはずなのに、
思わず笑ってしまう箇所が次々に出てきます。
怒涛となって押し寄せてくる悲惨の大波の上を、笑いの小舟が
漂っています。最初から最後までじんわりと湧いてくるユーモアは
途切れることがありません。
こんな絶望的な状況をユーモアで包んで語れる作者の力量に
ただただ脱帽します。これが初めての著書だそうです。ものすごい
書き手がいたもんだなあと驚かざるを得ません。

さて、19歳になったフランクは船でアメリカに渡ります。
潮の関係でポキプシーに仮停泊することになった夜の出来事を
描いた18章の最後と続く19章(1行だけ!)とが、フランクの
アメリカでの明るい未来を示唆しています。

この日本語版を(1998年刊)魅力的なものしているのは、訳文の
力がおおいに関係しています。原文の文体がどのようなものかは
知りませんが、土屋政雄による訳文は、少年の悩み、哀しみ、
喜びなどの心の揺れをストレートにかつリズミカルに伝えています。
そのため570ページ近い大部にもかかわらず一気に読めます。
読まされてしまいます。
そして満月の光のような感動が湧き上がってきます。

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