大虐殺の中で少年は懊悩する。『ちいさな国で』を読む

5月18日の朝日新聞朝刊に「ルワンダ大虐殺 仏で容疑者逮捕」と
いう記事が出ていました。普段なら素通りしたかもしれませんが、
その日はしっかりとキャッチし、読みました。
というのもちょうどそのとき、ルワンダの大虐殺を扱った『ちいさな
国で』を読んでいたので。
記事によれば、容疑者は政治家でも軍人でもなく実業家です!
民兵組織に資金提供しただけでなく、大虐殺を扇動したラジオ局を
設立したという。

ガエル・ファイユの『ちいさな国で』(ハヤカワepi文庫)の主な
舞台はブルンジ共和国です。ルワンダの隣国です。
語り手の「ぼく」(ギャビー)は、フランス人の父とルワンダ難民の
ツチ族の母(イボンヌ)、妹のアナとともに恵まれた幼少期を
過ごしています。
父はフランスに帰ればただの人だけど、ここにいれば特権階級の
暮らしができるので、ブルンジを離れようとしません。
ギャビーは近隣のガキたち(全員裕福な階級の子供)と牧歌的な
悪戯に身を投じ、日々を送っています。
明るく伸び伸びとした少年(10代前半)時代です。

イボンヌの兄弟と叔母一家はルワンダに住んでいます。
弟の結婚式のためにギャビーは母と妹と一緒にルワンダに赴きます。
そこで、ルワンダ愛国戦線に参加している母の兄が、ルワンダ
国内の政治状況を母に話しているのを耳にします。
「ぼくらはこの国の全土で大規模な虐殺が起こるんじゃないかって
心配してるんだ。過去に何度かあった殺戮が、単なるリハーサル
だったと思えてしまうような殺戮が」

その心配通り、フツ族によるツチ族の大虐殺が始まります。
その復讐としてブルンジではツチ族によるフツ族への殺戮が
始まります。

ヨーロッパ人とブルンジの人々、その中のフツ族とツチ族との
関係とせめぎ合いが次第に緊張し逼迫し、無差別な暴力になだれ
込んでいくさまがリアルに描かれます。

一時期、かつての悪ガキ仲間から距離を置いて、本の世界に没頭
していたギャビーも、再び仲間に引き入れられ、フツ族襲撃に
加わらざるを得なくなる。
フツ族の男を車に閉じ込め車内にガソリンをまいた上で、ギャビーは
火を付けろとリーダーから強要される・・・

それ以上に過酷な状況になるのがギャビーの母イボンヌです。
ルワンダが小康状態になったとき、彼女は兄弟と叔母一家の消息を
探りにルワンダに入る。
そこで彼女が見たものは・・・
正気を失った彼女は家に帰り着くが、もはやかつての母ではない。
やがて彼女は家を出て行方がわからなくなる。

状況が逼迫し、ギャビーは妹とともにフランスに逃れる。
20年ぶりにブルンジに戻ったギャビーは、かつての仲間の一人と
酒場で再会する。そうしてその酒場の薄暗がりの中で、母を
見つける・・・
戦争の残虐さと非人間性がイボンヌの姿に象徴されています。

巻末の一節、ギャビーの意思が静かに、しかし力強く示されます。

ところで、ギャビーが母と一緒にルワンダに行ったときラジオで
DJが何かを叫びます。叔母一家はすぐにラジオを切ります。
いま、何て言ったの?
「ゴキブリを殺せ」と言ったのよ。
「ゴキブリ」とはツチ族のこと。
そのラジオ局は、逮捕された容疑者が設立したものだったの
だろうか。
公正な裁判により彼が裁かれ、鉄槌が下されることを願う。

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